SEO用語解説 - D
ロングテールのキーワードでニッチな市場を狙う
執筆:一般社団法人全日本SEO協会代表理事 鈴木将司
作成:2021年8月30日
キーワードはSEOの施策において、なくてはならないもの。上位表示を目指す検索キーワードがないと、SEOでは何もはじまりません。
ではSEOをしたいのだったら、どんなキーワードでもいいからとにかく決めることが大事でしょうか?
これは、適当に答えを出せないクエスチョンです。キーワードを適当に決めると、最大の目的である「アクセスや売り上げを増やす」という目標が思う存分達成できなくなるからです。
…そもそもキーワードには種類があります。「キーワードを選ぶ」ということは、「キーワードの種類を選ぶ」ことでもあります。
というわけで、このページの目標は
- キーワードの種類を再考する
ことです。
しかしそれだけでは終わりません。その次の目標は
- 「ロングテール」のキーワードの使い道を認識する
ことです。
キーワードにも実は種類がある! どんなキーワードをターゲットにするべきか?
SEOをはじめるなら、最初のうちに必ず決めなければならないのが、上位表示を目指す目標キーワード。
そのキーワードにも種類があります。
- スモールキーワード
- ミドルキーワード
- ビッグキーワード
この3種類の中で、いちばん大切なのは何といってもビッグキーワードでしょう。 スモールキーワードでばかり検索上位に入っても、おおぜいの消費者が集まるとはなかなか想像できないものです。
そうなると「とにかくビッグキーワードで上位にランクインすることが最重要かつ最優先」、そのような結論になるでしょうか?
これは正しいようでありながら……、実は不正解です。
ビッグキーワードはもちろん優先順位は常に高いですし、念願かなって検索上位に食い込めたらそれはそれはありがたいものでしょう。
しかし、世の中そううまくはいきません。
その理由とは何でしょうか。
1 ビッグキーワードは「レッドオーシャン」のようなものであるため
ビッグキーワードで何が問題なのかと言ったら、「競争が厳しすぎる」ことです。
Web集客がさかんな業界それぞれで、猛烈に激戦のビッグキーワードがあります。
法曹界なら「相続」歯科医療界なら「インプラント」が、いい例でしょう。
しかしこれらのビッグキーワードで、たとえば上位5位以内に食い込むには2年以上はかかります(長年、Webサイトを眺めていますと……、そう結論せざるを得ません。
SEO対策をやっていると主張し、事業概要にSEOも含めているWeb系企業や販促サービス企業はあまたありますが「どんなキーワードでも上位にあっという間に入れる」なんて豪語するところでいっぱいなのですが、残念なことにそれは誇大広告です。
トップクラスのビッグキーワードで上位に入ることは、正真正銘「至難の業」なのです。
2 ビッグキーワードからの流入が収益を生み出す確率が高くないため
Webサイトのアクセスが数十人の例から、数万人に及ぶ例まで、ビジネスサイトはさまざまですね。それにしても、企業サイト・ビジネスサイトの流入はどんなキーワードに依存することが多いものでしょうか?
これはケースバイケースですが、はっきりした特徴が1点あります。それは「ビッグキーワードを介した流入は、(意外なことかもしれませんが……)ほとんどない」という特徴です。
よほどの大企業であれば、ビッグキーワードで上位をキープできるでしょうから、話は別かもしれません。しかし日本の企業はおよそ99%がいまだに中小企業です。
そのほかの事情もありますし、スモールキーワードorミドルキーワードの役割のほうが実際には大きいものなのです。
スモールキーワードorミドルキーワードで気づかないうちに、サイトの順位が上がっていくと、それを偶然クリックするネットユーザーがじわじわと増えて、流入の増加につながっていくのです。
ではここで、以下のグラフをご覧ください。
左側は、恐竜(たとえば、ブロントサウルスのような、首も尾も長い種類)の首のように見えないでしょうか?
右側に目を移すと、恐竜の尾のような形状ではないでしょうか?
首も尾も長いとはいえ、尾のほうが長く伸びていますね。これこそ「ロングテール理論」です!
- ビッグキーワードで検索するユーザー
- ビッグキーワードで流入するユーザー
どちらも、このグラフではいちばん左側の「恐竜の首」の部分にあたるわけです。
Amazonのような巨大なショッピングサイトは、まさにこのような状態なのだとか(それを報告したのは、「WIRED」という雑誌の編集長を務めていたクリス・アンダーソンという米国の識者でした)。
Amazonでは、ものすごく売れ筋の商品のおかげで儲かっているのではありません。何億種類もの商品が売れているため、総合すると莫大な売上になっているのです。Amazonは専門店ではありませんし、何でも売っています。
では、Amazonにそれができた理由は?
通常のスーパーマーケットや百貨店でしたら、在庫を持たないといけません。ところが在庫を管理するなら、倉庫に商品を出し入れしないといけません。それから、店舗を全国に出店しないといけませんね? さもないと、消費者に商品を見せられませんから。
しかしAmazonは、そうするかわりに全商品を通販で提供しています。倉庫はもちろん独自に持っていますが、倉庫に商品を入れていないときでも、ユーザーが買い物かごに入れた主運管にメール等が納入業者に瞬時に飛びます。
したがって、業者の納入や発送作業が自動的に処理されます。この仕組みのため、Amazonは大量の品目を難なく取り扱えるのです。
※旧来の店舗型のビジネスでは、倉庫のサイズにも制限がありますし、持てる店舗数がAmazonより少ないといった弱点がありました。
このため今のようなネット全盛の時代には、すっかりおくれを取ってしまったのです。
以上がロングテール理論の怖さです。
小さな品目でも、寄せ集めて大量に売りまくれる場をネット上に開設すれば、世界一の小売業になれるのです。Amazonが実現した通りに。
「ロングテール理論」を自社サイトへの集客に応用するための心得
1 ビッグでないキーワードが、ユーザーが流入するルートをいつの間にか築いてしまう、という真実
それでは、このように非常に説得力にあふれたロングテール理論から我々はどんな教訓を見つけたらいいでしょうか?
すでに前のほうで述べていますが、「サイトの運営者側が想像もしなかったマイナーなキーワードでも、検索する人(あくまでも少人数だが)が世の中のどこかにいる」のです。その積み重ねが、アクセス数を生み出すのです。
Googleのサーチコンソールを使うと出てくるデータを参照しても、その事実はありありと伝わってきます。サーチコンソールの「検索パフォーマンス」を表示させてみましょうか。
全日本SEO協会のアカウントで、サーチコンソールにログインします。それから、「検索パフォーマンス」を選択します。
すると、自社サイトへのアクセスに関するデータがリスト表示されます。
このデータの特殊なところは「キーワードにまつわるデータだけで占められている」ということ。
以下の図は、自社サイトへの流入をもたらしたキーワードの上位10位のリスト。
いわゆる「トップテンランキング」ですね。全日本SEO協会のセミナーを告知するサイトの場合、アクセスをいちばんもたらしているのは「ワンストップソリューション」というワードです。
過去3ヶ月間で280人アクセスしていることがわかります。
検索パフォーマンスには、「平均検索順位」を検出する機能もついています。押したら、そのクエリや順位がわかります。
「ワンストップソリューション」は、第1位で280人と表示されます。
実際にGoogleで「ワンストップソリューション」で検索をかけても、1番に出てきます。ただこの「ワンストップソリューション」、全日本SEO協会にとっては長いことスモールキーワードのひとつでしかありませんでした。目標にもしていなかったのです。
Googleの口コミは、5.2となっています。
本当かどうか確認しましょう。
3位となっています。これだけ人目についているなら、人が集まるのは納得できます。vやはり、スモールキーワードだったワードがこっそりと、自社サイトへのアクセスを増やす原動力になってしまう可能性は(ときとして)すごく高くなるのです。
スモールキーワードが持つ潜在能力は、あてにならないものではありますが……決して馬鹿にできないものであることもまた事実です。
2 ビッグでないキーワードを、間違いなく手中に収めるための戦略
それともうひとつ、忘れてはならないのは
「スモールキーワードは、ミドルキーワードやビッグキーワードに成長する前につかまえて、囲い込んでおいたほうがよい」
という点です。
漁師の仕事にたとえるなら、
「小さな魚は大きくなればなるほど、賢くなったり俊敏になったり強靭になったりするので、捕獲が難しくなる」
ということです。
- スモールキーワード=小魚
- ミドルキーワード=タイやサバのような、中くらいの魚
- ビッグキーワード=カツオやマグロのような、大ぶりな魚
※小魚も釣れない人は、上等なタイを釣れることはまずありません。
それと、タイを釣った経験がない漁師なら、おそらくマグロを釣り上げるチャンスは持てないでしょう。
というわけで、「小魚のうちに手を伸ばしましょう」という結論になるのですが……あまたあるスモールキーワードの中から、「どれを選んだらいいのかもわかりませんし、いつ手を伸ばしたらいいのかもわからない」そう感じてしまって当たり前でしょう。
しかしタイミングに関しては、はっきりとした答えがあります。それは「釣ったとき」です。
どのような自社サイトにも、業界独特のキーワードがたくさんあるものですね。というわけで、業界に身を置いていれば、ときどき耳に入ってくるワードがいくつもあるもの。それらを聞いたときこそ、「釣ったとき」。
※「この言葉は何回か聞いた! 新しいけどちょっと調べて書いてみよう!」~と、聞いたときは、「あとでやろう」なんて思わずに、すぐさま行動に移すのがいちばんです。
そのほうが、ライバルがいないうちにそのワードを利用できるチャンスがありますから。誰も書いていないコンテンツを作成できるわけです。
内容に不備が少しくらいあっても、ライバルがいないうちならしばらくは順位が上がるでしょう。競争率がいずれ高まるかもしれませんが、それまでは有利に順位を上げていけます。
私の関東のクライアント(医療関係)のサイトは ブログを書くことでアクセスを増やすことに成功していました。なんと、1日あたり3,000人もの流入があったのです。
とはいえ、さすがにいつまでも好調を維持することはできませんでした(徐々に順位を落としてしまったのです)。
サイトおよびブログの検索パフォーマンスをチェックすると、その秘密を暗示するヒントが表示されていました。それは日本人にはあまり知られていない新しい情報(極秘情報のため、詳細をこの場で明かすわけにはいきませんが……)を、日本語でどこの医療機関よりも早めに解説していたのです。
つまり、検索パフォーマンスの上位に並ぶキーワードは、スモールキーワードではあるものの、ブログ記事のテーマと密接に結びついたものばかりだったのです。
※といっても、これは偶然のたまものだったとのことです。たまたま海外の学会に出席したときに聞きつけた話題を、なんとなく書いただけだったそうです。その話題に詳しかったわけでもないのだとか。
では、この事実が教えてくれる教訓とは何でしょうか?
それは
- どんなキーワードでも、どんなにスモールなキーワードでも、大当たりする可能性は秘めている
- 当たった結果、アクセス数が増えればサイト全体の評価が上昇する
- サイト全体が高評価になれば、利用したくてもなかなか利用できないミドルキーワード~ビッグキーワードでも、検索順位がだんだんと(or急に)上昇するようになる
~といったところでしょう。
以上が、GoogleのSEOにおけるミドルキーワードやスモールキーワードの仕組みです。小魚をすくい上げることから結果を出していく。そして最後に大きな魚を釣り上げるのです。
まとめ:どんなキーワードも漏らさず利用するのが、ロングテール理論の極意
SEOといえば、ついビッグキーワードにばかりとらわれてしまいますが、Web集客はそれだけで完結することはありません。
- あくまでも最優先すべきなのはビッグキーワード。しかしビッグキーワードはしばしば、熾烈な競争に挑むことを余儀なくされるため、望み通りの成功に近づけるとは限らない。
- ビッグキーワードからの流入および収益、すなわちコンヴァージョン率が、たいしたものではない企業サイトは、実は世の中にあふれている。
- 企業サイトを詳細に調べると、スモールキーワードorミドルキーワードがコンヴァージョン達成に貢献していることは案外と多い。寄せ集めれば、大規模なアクセスおよび売り上げにつながる。
- 今ではビッグなキーワードも、発端はスモールなキーワードだったという可能性が高い。他社が目を向けないスモールキーワードのうちに、早いところおさえてしまったほうが得策。
- 期待しなかったワードがSEOの成功をもたらしてくれることもあるため、予想は難しい。とにかく、業界独特の用語をはじめ自社サイトと関係があるワードをコンテンツとして書き込んでいくことから、ロングテール理論の活用を開始できる。
ビッグキーワードにこだわっているのに、競合サイトとの競争に勝てそうにないときこそ、ロングテール理論を思い出してスモールキーワード~ミドルキーワードを使って、他社とは違ったコンヴァージョンの達成を成功させたいところです。